木村秋則さんの講演に続いて、福島大学食農学類教授(森林科学・土壌生態学)金子信博さんが、『日本の生態適合農業とアグロエコロジー』について話されたが、大変興味深い内容だったので、できるだけ記録を残しておきたい。
金子信博さんの講演
土壌生物の多様性と生態系機能
<生態機能群>植物が→土の中の有機物(デトリアス、根滲出物)になり→落葉変換者の細菌や根食者のカビが働き→さらに微生物食者や生態系改変者が、土壌環境を整え、栄養塩を出し→植物が取り込む
<保全農業の3原則>①不耕起・省耕起(クリンパー、不耕起播種機)、②地表面の保護(有機物マルチやカバークロップ)、③栽培システムの多様化(輪作、混作)
<地上部と地下部生物の生態遷移>地上部は、シアノバクテリア→蘚苔類→維管束植物と遷移。地下部は、アーキア→バクテリア→カビ→微生物食者(原生生物、センチュウ)→落葉変換者(小型節足動物、大型土壌動物)→生態系改変者(ミミズ)と遷移する。しかし、地上部は攪乱によって、地下部は耕起や肥料、薬剤散布によって遷移が元に戻される。
保全農法の世界的な拡大
2015/16年で、1億8000ヘクタール、耕地面積の12.5%、年間1000万ヘクタールのペースで増加しており、78ヵ国で実施されている(日本はゼロ)。
アメリカのトウモロコシ、綿花、大豆、小麦は、耕起が50%、不耕起と耕起を交互に行うのが29%、完全な不耕起が21%。アメリカでは、耕起すると土壌浸食が進むので不耕起が採用されたが、問題は雑草で、それを解決するのが除草剤と遺伝子組み換え作物。しかし、除草剤耐性雑草が出てくるというイタチごっこに陥っている。この問題を解決するのが「不耕起・カバークロップ」や「不耕起・草生」の土壌保全型農法。
愛知県新城市の松沢正満さんの神津農場は、蛇紋岩質の土壌で耕すと地力を維持できないので独自の保全管理をされている。それが不耕起・草生・混植である。実験のため耕すと、土壌生物の多様性が減少したことが確かめられた。攪乱による多様性低下である。
保全農地のしくみ
保全農法の収量は結構高く、害虫も増えない。不耕起の方が下層まで水が移動する。土壌の表層では不耕起の方が土の重量が軽く、水分を多く保持した。不耕起の表層は草生によって有機物が増加し(下層土は逆に少ない)、陽イオンを引き付ける能力が高い(下層は低い)。有効態のリン濃度が不耕起の表層で高まる。
アグロエコロジー
アグロエコロジーは、農業を生態学的に持続可能で社会により公正なものにすることを追求する運動。
農法比較:自然状態から自然への介入を強める順に並べると以下
- 森林・自然草原
- 自然農:植生を制御 ~不耕起・雑草草生
- 耕起/有機栽培:栄養塩を制御 ~不耕起・カバークロップ
- 耕起/慣行栽培:病害虫を制御
- 野菜工場:気象を制御+温室
【質疑応答】
- 草生:雑草を抜くのはもったいない。根が大事なので、植物と根っこを増やす
- 耕起:耕起すると土壌微生物が減る。耕した後は必ず敷きわら等で土を裸にしない。土壌微生物は食べ物としての有機物が欲しいので、有機物を増やす
- 畑は有機物と乾燥(水はけの良さ)が大事。団粒構造は水はけと水持ちの両方を良くする。耕すと団粒構造を壊してしまう
- 土の中には生きものが地上より多くいる。成長すると羽が生えて地上に出てくる。クモはこれらを食べるため、巣は下向きになっている
- 保全農法の農家で有名なのは、北海道の米国人ユーチューバー。6ヘクタールに小麦と羊を飼っている。耕作放棄地で大勢でやるのが一番良い。いろいろ試せるし、失敗しても良いので。ビニールマルチの代わりに紙マルチを試したいと考えている
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最後に2人の生産者様から発表があったので、簡単に紹介しておきます。
宮尾浩史さん:自然栽培新潟研究会 代表 ハミングバードで紹介されています。新潟こだわ市場の生産者ブログはこちら
現在は4.3ヘクタールの水稲を無肥料無農薬で育てつつ、無農薬栽培に取り組む農家18軒で発足した協同組合人田畑(ひとたはた)の立ち上げに尽力し、上野晃氏(上野農場)とともに稲と若手を育てている。(僕の感想:4.3ヘクタールもの田んぼを自然栽培でやっておられるところが一番の感銘点。)
岩野雄介さん:こだま農園代表 静岡県富士見市 1町2反(田んぼ5反、畑7反) Facebookはこちら
2018年4月に『こだま農園』開設、2020年4月に『Seed Cafe』オープン、今年農家民宿『MINAMINOーUCHI』を準備中。整骨整体師、トレーラー、格闘技指導者として健康を追求、そして行き着いた『食』。講演では次のような話をされた。
整骨院の頃のリピーターは経営的には有難いが、完治できない虚しさも。根本的には生活習慣の改善ができないことが原因なので運動指導をし、直ったらスポーツジムに来てもらうようにしたが不完全。インドにヨガの勉強に行ったが、一番健康に効果的だったのは食事療法だった。帰国して「食」に気を付けたが、日本は健康とは逆方向に行っている。アメリカのオーガニックを調査したが、いろいろ選択できる自由がある。子どもの将来が心配になり、農家になる決意をした。次の世代に繋いでいきたい。
自然栽培は日本が誇れる、世界で勝負できる農法。発信することが大切なのでカフォをオープンした。農業に従事して、経済じゃない、本当の豊かな世界があると感じた。(僕の感想:すごく共感できた。エネルギッシュな追求力や行動力や実現力を学びたい。)