3人目は杉山修一さんで表題の講演。上の写真は今年3月18日発売予定の杉山さんの最新本で、amazonで予約受付中。(僕は予約済み。講演内容は新刊本のネタバレになるかも?)
まずリンゴの慣行栽培ですが、実に農薬散布10~11回、下草刈り7~8回という過酷な労働をされています。下草刈りは、農薬散布は重機を使っているので、重機が走行できるようにするためです。青森県のリンゴ研究所では、実験的に40年間農薬を使用していないリンゴ園があるのですが、全く実が付きません。だから絶対不可能と断定されてきたのです。しかし、木村さんは無肥料・無農薬でも見事にリンゴができました。木村さんはなぜ奇跡的にも成功したのでしょうか?
木村さんも、無農薬栽培を始めた1978年から1985年までの8年間はハマキ虫の食害と斑点落葉病により葉が落ち、収穫ゼロでした。この間は堆肥を散布し、焼酎やコムギ、ニンニクなどの生物資材を散布する「有機栽培」をしていた。そして85年の夏、岩木山でひらめきます。農薬をかけていないのに、ドングリの木は立派に育っている。リンゴ園との違いは、雑草が生え放題で、地面は足が沈むくらいふかふかだった。そうだ、このような山の土を作ればいいのだと。それからは大豆など下草栽培する「自然栽培」に転換し、3年後の1988年に初めてリンゴが実った。
標題に「17年間の研究」とあるのは、杉山さんが奇跡のリンゴに出会われたのが2003年でそれ以降研究された。
奇跡のリンゴはなぜ成功したのか?
(1)無肥料でなぜ育つか :土壌微生物による自律的養分供給
土壌分析から、木村園は30年以上無肥料にもかかわらず養分欠乏は起きていない。慣行栽培では、作物が土壌から栄養分を持ち出すので外部から補給することが不可欠と考えられていたが、自然栽培では、土壌は微生物を中心とする多様な生物が集まった複雑な生態系であり、外部に持ち出された栄養塩は自律的に供給する能力を持つと考える。実際、木村園には土壌微生物が多いことが分かっている。中でも重要なのは、空気中の窒素を固定する窒素固定細菌と、土中の有機物を分解して無機化する微生物。
(2)害虫をどう抑えるか :天敵による害虫防除
木村園は慣行栽培園よりハエ、ハチの仲間が6倍多い。慣行栽培では、農薬が害虫も天敵も無差別に殺傷するので、昆虫の多様性が低下し、天敵による害虫抑制が不可能になるが、自然栽培では、農薬を使わないので、昆虫の多様性が増加し、天敵による害虫抑制力が発達する。
(3)病気をどう抑えるか :内生菌による病害抑制
リンゴはとりわけ病気に弱く、主要な病害は黒星病、斑点落葉病、褐班病。無農薬によりリンゴの葉内生菌が多くなり、青カビ菌などの病害菌を抑制し、落葉を防いでいる。落葉率に影響するのは3種の菌で、中でも1種の内生菌がダントツに影響力が大きいことが分かっている。
自然栽培は農業のイノベーション
1950年までは有機栽培、その後「緑の革命」により化学物質の投与や遺伝子組み替えが行われ、個体の機能強化や環境の均一化が進められた。しかし、「自然栽培」は生物多様性によりシステムの強化や環境の複雑化を進める=イノベーション。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後に、当フォーラムを開催された弘前大学人文社会科学部の黄ゼミの学生さんが活動報告された。それは「自然栽培関係者の交流の場を提供する!」ということで、具体的にはホームページを構築する(リンク先)。有機栽培の割合は約1%、自然栽培はその1/10以下しかないので、自然栽培の普及は大きな意味がある。
『自然栽培センター』(上のHP)発起人のNPO法人岡山県木村式自然栽培実行委員会 理事長の高橋啓一さんが、センターの構想や手順、そして自らの岡山の取り組みを紹介された。その土地ならではの農産物を自然栽培でつくりましょう!としめられた。(僕が岡山県人だったらすぐにでも参加したいが…♪)