多くの方が必読の古典として薦めておられる、生命の進化の歴史を理論化したダーウィンの『種の起源』(光文社古典新訳文庫、2009年12月初版)をやっと読むことができた。中身が濃く難解なところがあるがとにかく最後まで読み進めた。あと何回か読んで理解を深めたいが、1回通読しただけでも凄い、感動した。
訳者の渡辺政隆氏の解説から紹介する。
イギリスのチャ―ルズ・ダーウィン(1809~1882)が1859年に出版した『種の起源』(正式な書名は『自然淘汰による種の起源-生存闘争における有利な品種の保存』)は、決して誇張ではなく、世界を変えた書と言ってよいだろう。
この時代は大英帝国華やかなりしヴィクトリア時代で、イギリス社会では英国国教会の力が依然強く、すべての生物は神が個別に創造したものだという創造説が幅を利かせる時代だった。
その中にあって、生物は共通の祖先から進化したと主張すれば、社会的制裁も覚悟しなければならないような風潮があった。従ってそれにあえて踏み切ったダーウィンは用意周到な論証を行う必要を感じており、生物進化の着想を得てから実に20年以上もの準備期間を経て『種の起源』を世に送り出した。
発売された『種の起源』はたちどころに完売した。ダーウィンが予測したほどの騒動にはならず、社会は意外と冷静に受け入れた。むしろ労働者階級は熱烈に歓迎した。一部の聖職者や科学者は反発や落胆を示したが、大勢に影響はなかった。ダーウィンはその後も次々と「種の大著」を出版していった。
現代的意味:ダーウィンは進化学の祖であるばかりでなく、生態学、地質学、古生物学、動物心理学(行動学)、体系学(系統学)、科学論等々、現代の主要な研究分野の方向性を予見した偉大な科学者である。しかもそのエッセンスは『種の起源』にすべて盛り込まれている。そんなダーウィンの慧眼を行間から読み取っていくのも『種の起源』の読み方の一つだろう。
やはりこれは面白くないはずがないことが分かる。因みに、『種の起源』出版以後150年間の進化論をめぐる生物学の研究成果も解説されており興味が尽きない。特にダーウィンの時代にはまだ解明されていなかった遺伝の仕組みの解析が進んだ現代にあって、ダーウィンの結論が正しかったことが証明されつつあり、その先見の明は驚異である。生物も人生も『種の起源』を読まずして語ることはできないとする訳者に同感だ。
おまけ:ダーウィンは生涯一貫して気にかけていた対象はミミズで、死の前年に出版した著書は『ミミズによる腐植土の形成について』(1887年)というミミズに関する小冊子。ちっぽけなミミズのたゆまぬ活動がストーンヘンジの岩石をも地中に埋め込むことに、大自然の摂理と命の永続性を見ていたとのこと。農業に携わる者にとっては興味津々なテーマで、是非続けて読みたいものだ。