10/26のと里山農業塾の講義としては最後の塾(11月の閉塾式で塾は終わる)。「販売について」西田栄喜さんの講義を受けた。
西田さんは1969年石川県生まれ(50歳)、1999年『菜園生活 風来』を設立(石川県能美市、今年で20年)。風来は「日本一小さな農家(耕地面積は30aで野菜農家の10分の1の大きさ)」で、50品種以上の少量多品種の野菜を栽培、夫婦2人(労働力は1.5人)で、野菜セットおよび加工品を主にネット販売して(+「知恵」の教室もある)、年間売上1200万円、所得600万円。書籍も2冊あり(下の写真)、左の本は農文協では一番売れた本とのこと。

これまでは栽培技術的な講義が多かったが、今回は「販売」の話しで新鮮かつ感動的で、目から鱗の話しがたくさんあった。備忘録として一部ではあるが残しておきたい。
畑のある能美市は海より低く水につかりやすいため、水はけが重要な畑にとっては難しい条件下にある。畑にするには客土が必要だが、たまたま客土をしなくても良い畑が30aあった。
一次産業の国内生産額の割合は1割程度。だから10分の1の耕地面積でも、加工も販売もやれば(いわゆる6次産業化)10倍になり1になる、何とかなる(発想がユニークかつ大胆だ)。
最初からキムチ販売を想定しており(母親が評判のキムチ作り名人で教えてもらう)、その原材料も育てられたら面白い、だから野菜農家になろう、というサービス業(就農する前はサービス業に就いていた)の視点から逆算の発想をした。(※このような発想は考えてみれば当たり前だが、僕はまずは栽培、次にどう売るか?を考えている。見習わないと。)

農家の収入割合(下の写真):青果物の小売価格に占める生産者受取価格の割合は45.7%(流通経費は54.3%)。販売価格100円の場合、農家に支払わるのが46円、その内農業経費は約7割(46円×0.7=32円)かかるので、農家の純利益は14円。
市場に出さないで直販すれば、売上100円-経費32円=純利益68円。市場に出すより約5倍の利益が残る。

就農前にオーストラリアでファームステイ:どのファームも見渡す限りの農地、地平線まで続いている。肥料はヘリコプターやセスナで撒き、ハーベスター(収穫機)は幅20mもある超大型機械。ハーベスターはマクドナルドがオペレーターごと所有し、農家と契約して収穫するというシステム。日本の農家1戸当たりの平均経営面積は2.27ヘクタール、オーストラアは2970.4ヘクタール、日本の1308倍。けた違いで日本の集約・大型化程度では到底太刀打ちできない。
日本はミニマム主義、直売が向いている:オーストラリアでは都市部まで車で片道3時間。兼業農家はあり得ない。安定という意味でも日本の兼業農家は逆にうらやましい。日本では人口1万人の街へ車で30分で行ける。日本全国へ翌々日には宅配が届く。消費者と近く、直売に向いている。50件のお客さんがあれば、直販で食べていける。
無農薬だから売れる時代ではない。せいぜい1.2倍高く売る程度。6次産業化すればもっと高く売れる。風来では「晴耕雨漬け」。ダイコン1本直売所では100円、しかし漬物にすれば1袋200円のものが6袋できる=1200円と、12倍になる。
最初から専業は難しいので、バイト等しながら兼業からスタートすればよい。その場合なかなか畑に出る時間が取れないので「中量中品種栽培」がお薦め。カボチャ、サツマイモ、ジャガイモ、タマネギ、ニンジンなどから何種類か選んで栽培する。これらに共通しているのは、無肥料でも栽培しやすいこと、コンスタントに需要があり、日持ちがいいこと。

付加価値は農家そのもの。農家が直接自分の顔を売る時代。ブログ等で個人が情報を発信できる時代になった。こだわりなどのコンセプトとキャッチフレーズが大事。今やコンビニでもうまい、安い、安全なスイーツを売っており、これに対抗するには「過程」を発信することが大事。例えば商品開発に当たって試作の過程を、それは失敗の連続だがブログ発信する、そしてついに成功した。販売開始したときには半年先まで予約で埋まった事例がある。大手は有機JASに頼るしかないが、個人なら例えば風来なら「源さん」が出せ、こちらの方が勝つ。一次情報をもっている人が圧倒的に強い。
知恵の販売:漬物は今や「作る」から「買う」時代へ。例えば味噌作り教室など、知恵を教える、継承する必要がある。ぬか床セットは飛ぶように売れる。農家が売るので、質問に答えてもらえるのも売りになる。農家が仲間を作って勉強会をする。栽培がメインになるだろうが、これからはプレゼン能力を高める勉強会が重要。農家と消費者を結びつける「農コン」も盛況。お金があってもクラウドファンディングで資金集めするのもお薦め。資金提供だけでなく、ファンになってもらえる。
命の時代に向けて(下の写真):高価な順に並べると、宝石>服>食物>水>空気。しかしこれを命に必要な順に並び替えると、まるっきり逆になる。命の元である食を育てている「農」は、本来それだけで「志高い」仕事。命の価値観で見た時、振り返ればトップランナー、それが農業。
