水田には様々な生物が生息しており、特にイトミミズは水田の生態系に様々な影響を及ぼしていることが分かってきた。
12/31記事で紹介した『無農薬・有機のイネつくり』にも、「長期間の湛水管理により、植え代前にアミミドロやユスリカ、イトミミズが発生し、その結果、光を大量に受けないと生長できないコナギは確実に消えることが分かってきた。」とある。
今日は生態学者栗原康著『エコロジーとテクノロジー』(上の写真)から、イトミミズのはたらきを記した章「ネットワーク的思考」から紹介したい。以下、抜粋。―――――――
水田は土と水と太陽に依存したイネの生産の場所である。そこにはさまざまな生物が侵入し生息する。まず雑草が生える。水中にはワムシ、ミジンコ類、昆虫、魚類などが現れる。
泥の表層部は、水中からの酸素によって酸化鉄の、赤みがかった色をした酸化層と呼ばれる2~3ミリの薄膜になっている。ここには藻類のほかにモノアラガイ、タニシ、サカマキガイのような貝類やユスリカの幼虫が生息する。
これらの生物は酸素呼吸によって酸素を消費するので、酸化層の下にある泥は著しく酸素不足になっていて黒灰色を呈している。このような泥は還元層と呼ばれ、いろいろな養分を含んでいて、細菌を主とする微生物が生息し、イネや雑草が根をはっている。
春から晩夏にかけて、水田の泥の表面にたくさんのイトミミズがひらひらと動いているのを見かけることがある。頭を下にして泥中に生息し、尾部を水中につき出して活発に動かしている。彼らは泥を摂取してバクテリアのような有機物を食べ、泥の表面に糞を排泄して、尾部の表面から水中の酸素を取り入れて呼吸する。(下図)

イトミミズが泥の中で逆立ちして、尻尾を水中に出してひらひら動かすという行動は、酸化層を破壊して消失させ、泥の表層まで黒灰色の還元層にしてしまう。
酸化層がなくなると、還元層と田面の仕切りがなくなるから、還元層からアンモニア、二価鉄、燐酸、有機物が水中に溶出しやすくなる。すると水中の栄養塩類は増加するから、これを養分とする藻類が光合成によって増える。藻類は体外に有機物を排出するので水中の有機物の量が増え、細菌も増える。藻類や細菌が増えると、これらを餌にしているミジンコなどの小動物が繁殖する。
こうして水中の生物の量が多くなると、これらの生物の死骸は泥に滞積するから、泥の中の有機物も増加する。
イトミミズはまた、泥の中の分解しにくい有機物を食べて分解しやすい有機物に変え糞として排出し、尿としてアンモニアを排泄するから、有機物の無機化を早めることになる。したがって、イトミミズは泥中有機物の無機化→無機物の泥から水中への放出→無機物の水中植物への転換→植物による有機物の排出→有機物の細菌への転換→植物と細菌の多細胞生物への転換→生物遺骸の堆積による有機物の泥への供給→泥中有機物の無機化というサイクルを強化し、そのスピードを早めている。
つぎにイトミミズのいる水田といない水田で雑草の生え具合を比較すると、イトミミズの多い水田は概して雑草の生えがいちじるしく悪い。
イトミミズは泥の表面に糞を排泄するので、表層に存在する雑草の種は糞に埋め込まれて、下層に移行する。すると酸素の供給が絶たれ、発芽は抑制される。また仮に表層にとどまって発芽したとしても、イトミミズの尾部の運動によって倒伏し、根の定着が妨げられる。
このようなイトミミズの除草効果は、発芽以前のものか芽生えの初期のものに限られる。ある程度生長した植物体には効かない。したがって田植えをしたイネはイトミミズがいても充分に育つ。また除草効果を発揮するのは水をはった状態の水田に限られる。泥が空中に露出するとイトミミズは泥の底にもぐってしまうから除草効果はなくなる。
それではイトミミズはどんな水田にも発生するかというとそうではない。われわれの調査した限りでは、化学肥料のみで施肥した水田にはあまり発生せず、堆肥のような有機肥料を施肥した水田に多発する。またPCPのような農薬を使用すると死滅する。
それでは、イトミミズの性質を利用して、除草座を使わずに水稲栽培は出来ないものだろうか。堆肥を入れてイトミミズを多発させた水田に根張りの良いオキ系品種を植えた。泥が水面より露出しないよう水を管理して、それ以外は天の恵みに任せておいた。すると、水稲は順調に成長し実をつけた。収量は平年並みであった。
―――――――抜粋、終わり
おまけ:正月2日目は出石神社に参ってきた。
